【ファウンダー日記】問題会社の株主総会体験記
2015.04.07
ブログ日本では大塚家具の”父娘対決”が世間を騒がせ、お家騒動と揶揄されているが、ワールドワイドではかってのブランド力が凋落、食の安全性や健康問題でも危惧視されているのがマクドナルドだ。
昔米国に出張した時に、今日は「ゴールデン・アーチでディナーだ!」と誘われ、キョトンとしていると、冗談だよと言われたことがあった。マクドナルドがまだ親しみのあるブランドであった時代だ。
そのファストフードとフランチャイズシステムの巨大先駆者が、”落日のバーガー帝国”と嘲弄され客離れが著しい。同社がブランドイメージの回復のためにどのような戦略をたて、売上と客数減少の歯止めにどのような巻き返し戦術を考えているのか、それを知りたいと思い、先日開催された日本マクドナルドホールディング社の株主総会に出席してみた。
改めて事業報告の数字を見てみたが惨憺たる状況だ。
売上げは前年15%減(3年前の7割の水準)で80億円の経常赤字に転落、当期損失は218億円。システムワイドセールス(FC店も含めた売上)では、3年前の5,350億円から4,463億円と888億円も減少してしまっており、昨年比だけで585億円減だ。
はっきりした要因があれば改善案も示しやすいが、悪いイメージが浸透しての状況なので、この先一体どうなるのか想像がつかない。
新事業年度に入り既に3カ月経過しているが、株主総会では新年度の業績予想や事業計画、具体的な改善施策などは提示されなかった。数字を出すにはあと数週間の時間を必要とし、4月中旬を目途に「財務回復プラン」が発表できるというエキスキューズがあった。
日本マクドナルドは71年の1号店Open以来、現在では3,100の店舗を展開し14万人のクルーを抱えているという。
その昔、日本マクドナルド創業者の藤田 田氏が米国のオーナーと契約した時の逸話で「藤田商店との30年間の契約で500店舗できたら成功だ。」と米国側は考えていたようだ。現在はその当時の想定を遥かに凌ぐ規模になっている。
1号店開店から44年、今、ビジネスの中核で活躍しているのは、生まれた時からマクドナルドがあった世代だ。
銀座三越で衝撃的なデビュー、売上世界一の店舗に!
63-64年の名神高速道路や東海道新幹線の開通、アジア初の東京オリンピック、70年には大阪万博と、どちらかと言うとハードが発展・整備されてきた時代にあって、ハンバーガーなる新しい食文化の紹介は衝撃的であった。
当時の値段は忘れたが、割と高価でしょっちゅうありつけるものではなかった記憶がある。そのころから”立ち食い”というスタイルがカッコ良いものになったような気がする。3C (Color TV・Cooler・Car)という新三種の神器の普及とともにハンバーガーというアメリカのソフトが受け入れ始められた時期だった。
話を総会に戻そう。
アノMac-コノMacと渡り歩いてきた原田 永幸氏が議長で、その落ち着いた采配振りは見事であった。彼に対し思うところはいろいろあるが、この議長役を晴れ舞台にして去って行ってくれることに一縷の望みが湧いてくるような感慨を覚えた。
サラ L カサノバ社長からは、Customer FirstをモットーにModern Burger Restaurant that connects with customers(お客様と結びついた新しいバーガーレストラン)を再構築していくという美しい言葉を羅列したプレゼンがあったが、お客と心の繋がりのある店づくりをどのようにしてやり遂げるのかと言う具体策を聞くことはできなかった。
また、監査法人の監査報告では、強調事項として、異物混入問題で事業活動に多大の影響が出ているが、「当該事項は、当監査法人の意見に影響を及ぼすものではない」という文言があり、それ以上のことには触れていない。
会社法の規定に則って監査しているとはいえ、このような重大なリスク、今後も続く危機に関してそれなりの言及があっても良いように思うが、素人の戯言だろうか。
取締役会、株主総会がその機能を果たせないとすれば、残る監査法人が最後の砦のような気がしたのだが。
上海福喜鶏肉や異物混入などの問題は客足減の一要因であるが、外食スタイルの変化や他業態との競争、世界共通のメニューや店舗運営モデルなど、マクドナルドのビジネスモデルそのものの限界、それと消費者の”飽き”という根本的な問題が相まってこのような長期低落化現象に陥っていると思われてならない。
総会の業績報告書では、『「すべてはお客様のために」という理念のもと、マクドナルドの独自性の強化、変化するお客様の需要への対応、店舗環境の刷新といった分野に重点的に経営資源を投入してまいりました。』と述べているが、それができていないから低落化しているということを本当に理解しているのか疑わしく思われる。
途中退出者が待ち構えている報道陣にあちこちで取材されている
当日は次の予定があり、総会が2時間を経過したところで退席したが、株主から出た意見の中で印象に残ったことを紹介したい。
一番印象に残ったのは、シニアでも行きたくなる店作りをして欲しいという要望だ。
「総会に参加している方々を見ても分かるようにシニアが多い、シニアは時間もありお金もある。たまに孫を連れていくというだけでなく、シニア自身がしょっちゅう行きたくなるような健康的なメニューとゆったりとした雰囲気の店づくりをすべきだ。」(会場から大きな拍手)…ビジネスモデルという言葉こそ使っていないが、まさにこういう点の論議が待たれる状況である。
2つ目は、不健康イメージの払拭だ。
「総会資料では”見える、マクドナルド品質”と謳っているが、食べ続けると健康を害するという風評はお客を不安にさせている。カサノバ社長、こう言っては何だが、もう少し痩せられたらどうですか?先ずは、あなたが率先して範を示してください。」(会場は皆、苦笑)…セクハラもどきの発言でヒヤリとしたが、確かに!と納得。何故かTANITAを思い出した。
3つ目は、新任取締役ラーソン氏に関する質問だ。
「生年月日から判断すると、あなたは16歳からマクドナルドに入社していたことになるが間違いないか?」という問いに、「米国で店員からスタートし42年、米国や欧州でマネジメント職を経験してきた。」とのこと。現場も分かっている人材の登用のようだが、他の日本人の返り咲きメンバーも含め、会社の軸となるオペレーションがしっかりしていくことも重要な要素と思える。
日本マクドナルドは、アノMac-コノMacと渡り歩いてきた方の代表就任以降、何となく迷走してきた感がある。お客の嗜好や現場から考えた政策ではなく、頭の中だけで考えてきた運営だったのではなかっただろうか…?
数十年前に藤田 田氏が米国本社と契約する時に「本社には口を出させない。田流でやる。」という条件をつけたと言われているが、フランスでは、お客の好むバゲットやクロワッサンなどを使ったり、フランス流にローカライズされた店舗運営で売上増進しているらしい。
大量生産/消費、画一的マーケティングは既にどの業界でも無くなっているモデルだ。
日本の中でもその地域に合ったメニューと店舗運営、旧来のハンバーガーに拘らない商品、これらをどう提供していけるのかがこれからの課題と思えるが、果たしてどんなBusiness Recovery Planが出てくるのであろうか。
蛇足
その❶ 総会の案内状に「(他社と異なり)総会でのお土産は出ません」とわざわざ明記している。
その❷ 株価は、上場時の6割。
その❸ 東京ではマック、大阪ではマクド(フランス、フィリピンでも…)。大阪=フランス??